キーエンスの概要
キーエンスは、工場や生産現場の自動化を支えるファクトリーオートメーション(FA)用機器で、国内外トップクラスの実績を誇る精密機器メーカーです。
- FA用センサーや画像処理装置:自動車、半導体、電子機器などの大手メーカーで幅広く採用されており、生産ラインの自動化・品質管理に欠かせない存在です。
- 測定機器・変位センサー:高精度かつ高速な計測を可能とし、製品検査や研究開発の現場で使われています。
- PLC(プログラマブルロジックコントローラー):製造ラインや装置の制御を担い、幅広い産業分野で導入実績があります。
- さらに、医薬品・食品・物流分野の自動化ソリューションにも注力し、グローバルな拠点ネットワークを通じて世界中の製造業を支援しています。
キーエンスは、こうした高度なセンシング技術と制御技術を基盤に、多様な産業の生産性向上と品質向上に貢献する企業として、国内外で高く評価されています。
キーエンスの事業セグメント
キーエンスは製造部門を持たないファブレス企業で、電子応用機器の製造・販売を中心に事業活動を展開する単一セグメントと有価証券報告書には記載されています。ただし「製品ジャンル」や「用途別カテゴリ」ベースでの情報が公開されています。
キーエンスは、「センシング技術」「画像処理・計測技術」をコアに、グローバルに多様な産業向けソリューションを展開しています。2025年3月期の有価証券報告書等に基づく最新の事業セグメントの構成・業績推移は下記の通りです。
■事業セグメントの概要
1.FAセンサー事業
- 各種産業用センサー(光電・レーザー・変位・接触・圧力など)を開発・販売し、自動車、電子部品、食品、医薬品など幅広い製造業の生産ライン自動化と品質管理に貢献しています。
2.画像処理装置・計測機器事業
- 高速・高精度な外観検査や三次元測定を可能とする画像処理システムや測定機器を提供し、半導体や電子部品製造、研究開発現場で採用されています。
3.PLC・制御機器事業
- 製造ラインや装置全体の制御を担うPLC(プログラマブルロジックコントローラ)や関連機器を販売し、多様な設備の高効率運転を実現しています。
4.その他
- 静電気除去装置、コードリーダー、マイクロスコープなどの周辺機器や特殊用途向け製品(報告セグメントに含まれない製品群)
キーエンスの売上構成で最も大きいのはFAセンサー事業で、売上高は約4,100億円(全体の約48%)を占めています。営業利益率は50%を超え、同社の高収益構造を牽引しています。次いで画像処理装置・計測機器事業が約2,300億円(約27%)、営業利益率もは約50%と高水準で推移しています。
PLC・制御機器事業は約1,300億円(約15%)を占め、欧州やアジア新興国での自動化投資の拡大を背景に伸長しています。その他の製品群は約900億円(約10%)規模ですが、新興市場での需要拡大が続いています。
キーエンスの平均年収は2,039万円
キーエンス(単体)の2025年3月期有価証券報告書によると、平均年収は2,039万1,138円です。これは全従業員を対象とした実績値で、職種や年代ごとのレンジやグループ全体平均とは異なります。
■キーエンスの平均年収推移
決算月 | 平均年収 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 従業員数 |
---|---|---|---|---|
2020年3月期 | 1,839万円 | 35.6歳 | 12.0年 | 2,511人 |
2021年3月期 | 1,751万円 | 35.8歳 | 12.2年 | 2,607人 |
2022年3月期 | 2,183万円 | 36.1歳 | 12.5年 | 2,599人 |
2023年3月期 | 2,279万円 | 35.8歳 | 12.1年 | 2,607人 |
2024年3月期 | 2,067万円 | 35.2歳 | 11.5年 | 2,607人 |
2025年3月期 | 2,039万円 | 34.8歳 | 11.1年 | 2,614人 |
出典:キーエンス 有価証券報告書(各年度)。いずれも単体実績。「賞与・基準外賃金」含む。
過去5年間で最高水準となったのは、2023年3月期の平均年間給与(2,279万円)です。これは、前年2022年3月期の好業績が翌期の賞与に反映されたためです。
キーエンスでは期末賞与を含む業績連動型の利益分配を実施しており、経常利益や営業利益の伸びが直接的に賞与額に影響します。2022年の好調は、FA機器や画像処理装置など主力製品の国内外での販売好調に加え、円安による利益押し上げが寄与しました。
しかし、2024年3月期および2025年3月期は利益分配の原資が縮小し、平均年収は2,067万円から2,039万円へ減少しました。背景には世界的な景気減速、円安の一服、持株報酬コストの増加などがあります。
単体従業員数は2020年3月期の2,511人から2025年3月期には2,614人まで増加しました。新卒や若手採用の比率上昇により平均勤続年数が短くなり、平均年齢も35歳前後から34歳台へ低下しています。基本給は定期昇給や制度改定により上昇しているものの、賞与の減少や若年層比率の上昇が平均年収を押し下げる要因となっています。
キーエンスの年代別平均年収と中央値
■キーエンスの年収中央値は30代で2035.7万円
続いて、年収実態により近い年収中央値を見てみます。20代から50代までの平均年収・平均月収・平均ボーナス・年収中央値を表にまとめました。キーエンスでは年4回の賞与が年収に占める割合が高く、20代でも年間280万円前後、50代では480万円前後となっています。
年代 | 平均年収 | 平均月収 | 平均ボーナス | 年収中央値 |
---|---|---|---|---|
20代 | 1,430万円 | 87.5万円 | 280.0万円 | 1,301万円 |
30代 | 1,886万円 | 106.0万円 | 350.0万円 | 1,557万円 |
40代 | 2,100万円 | 116.0万円 | 410.0万円 | 2,100万円 |
50代 | 2,214万円 | 121.0万円 | 480.0万円 | 2,214万円 |
出典:キーエンス有価証券報告書(2025年3月期)、転職口コミサイト、有価証券報告書、編集部集計
30代の年収中央値は1,550万円となっており、若手層でも非常に高い水準です。平均年収は役職や成果配分の影響で中央値より高くなりやすく、40代以降は管理職比率の上昇により金額がさらに大きくなる傾向があります。
キーエンスの年収が高い理由
キーエンスは、自社工場を持たないファブレス経営によって、製造設備の投資や維持にかかるコストが極めて低く抑えられています。これが高い利益率と高収益体質の基盤です。
営業スタイルでは、顧客の課題やニーズを徹底してヒアリングするコンサルティングセールスを展開しています。その結果、FAセンサーをはじめとする精密機器の新製品開発では、約7割が業界初や「世界初」「世界最小」といった付加価値商品となっており、独自性の高い製品力を強みに選ばれ続けています。
さらに、キーエンスは代理店を介さない直販体制を徹底しているため、流通段階で中間マージンが発生せず、メーカーの中でも営業利益率が50%を超える水準を持続しています。国内の製造業では営業利益率が5%未満に留まる企業が少なくない中、社員数が2,000人を超えてこの利益率を実現できるのは特筆すべき点です。
こうした例外的な高収益構造によって、利益は社員に分配されやすい状況となっています。キーエンスでは、基本給を基準とした賞与のほかに、連結営業利益の一定割合を社員全員に業績連動賞与として支給する制度があり、この仕組みも年収の高さに直結しています。
キーエンスの職種別年収と賞与の仕組み
キーエンスの職種は大きく以下の3つに分かれています。
- ビジネス職:営業、海外、マーケティング、生産管理、人事、経理、総務 ほか
- エンジニア職:商品開発、ソフトウェア開発、生産技術、コンサルティングエンジニア ほか
- S職(事務専任職):営業事務、人事、経理、総務、販売促進、購買、生産管理 ほか
給与は職種ごとに異なるテーブルで管理されますが、基本給水準はほぼ同一で、職種間による年収の大きな差はほとんどありません。新卒の場合、入社後3年間は能力や実績にかかわらず毎年自動的に昇給しますが、4年目以降は配属部署や成果評価によって昇給幅に差が生じます。
キーエンスの年収水準を押し上げている最も大きな要因の一つが業績連動型賞与制度です。連結営業利益の10%が、新卒を含む全社員に年4回(四半期ごと)均等配分されます。
2025年3月期のキーエンスの連結売上高は約9,287億円、営業利益率は約50%でした。営業利益は約4,644億円となり、その10%にあたる約464億円が社員全員への業績賞与原資です。
同年度の単体従業員数は2,614人のため、単純計算では一人当たり約1,770万円が業績賞与として分配される計算になります(実際は在籍期間や日割計算による調整あり)。
このように、職種や年次にかかわらず、高額な業績連動賞与が全社員に支給される仕組みが、キーエンスの平均年収を押し上げる大きな要因となっています。
キーエンス社員の給与明細(キャリコネ)
20代でも十分高いが、30代になれば大台に!
20代コンサルティング営業(非管理職) の 給与明細
30代コンサルティング営業(非管理職) の 給与明細
同年齢でも能力によっては◯倍の格差が!
30歳コンサルティング営業(非管理職)の 給与明細
30歳コンサルティング営業(非管理職)の 給与明細
高年収の裏にある厳しい成果主義とプレッシャー
かつてキーエンスは「30代で家が建ち、40代で墓が立つ」と形容されるほど激務だと噂されていました。
現在では21時半以降の残業は禁止され、会社の資料やパソコンの持ち帰りも一切認められていません。取引先との接待や土日の接待ゴルフも禁止されており、勤務時間外の拘束は大幅に減少しています。
一方で、就業時間が限られる中で確実に成果を出すことが求められます。営業職はテリトリー制を採用しており、自身の担当エリアでどれだけ売上を上げられるかが評価の中心となります。営業目標は担当者の自己申告をベースに設定されますが、入社して間もない時期から裁量の大きい仕事を任されるため、その運用や成果は本人の力量次第です。
社内は徹底した成果主義で、甘えは許されない雰囲気があります。高い報酬を得られる分、求められる仕事の水準は非常に高く、精神的な負担も大きくなります。限られた時間で結果を残す難しさが、キーエンスで働く上での最大のプレッシャーのひとつといえます。
キーエンスと競合他社の平均年収を比較
オムロン、横河電機、アズビルはいずれもFA(ファクトリーオートメーション)および制御機器分野で国内外に強い競争力を持ち、直販・高付加価値商品を中心に展開しており、キーエンスとビジネスモデルが近い企業です。
なお、FAシステム事業では、三菱電機もキーエンスの重要な競合相手ですが、有価証券報告書では全社平均の年収や年齢データしか公表されておらず、FA部門限定の人事データは得られません。そのため、本比較表からは除外していますが、事業領域的には外せないプレイヤーです。
キーエンスは年収面で他の競合を大きく上回り、平均勤続年数や年齢が低めであることから、高度な成果主義と高速昇給の組み合わせが特徴的です。
企業名 | 平均年収 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 従業員数 |
---|---|---|---|---|
キーエンス | 2,039万円 | 34.8歳 | 11.1年 | 2,614人 |
オムロン | 821万円 | 45.7歳 | 16.8年 | 4,620人 |
横河電機 | 927万円 | 44.6歳 | 16.7年 | 3,580人 |
アズビル | 834万円 | 45.7歳 | 16.5年 | 2,050人 |
出典:各社2025年3月期有価証券報告書(単体実績)
結局キーエンスは就職・転職先として選んでもいいのか
キーエンスでは、長時間労働を防ぐ仕組みづくりが徹底されており、年間休日は126日と高水準です。「Work Hard, Play Hard」、つまり本気で働き、本気で休むというスタイルを全社的に掲げ、メリハリのある働き方を実現しています。かつては激務の代名詞のように言われた時期もありましたが、現在では深夜残業や休日接待などは禁止され、労務管理は厳格になっています。そのため、ブラック企業と形容されるような環境ではありません。
事業面では、誘導型や光学式、接触型など複数タイプのセンサーをはじめ、PLC、画像処理装置といった高付加価値製品を多数展開しており、その営業利益率はオムロンや米コグネックスなどの競合を大きく上回っています。FAや自動化分野は人手不足・DX・AIの進展を背景に今後も需要拡大が見込まれ、キーエンスのビジネスモデルは中長期的な成長余地を十分に有しています。顧客の現場課題を深くヒアリングし、解決策と製品をセットで提案するコンサルティングセールスの役割は、むしろこれから一層重要になるでしょう。
市場は国内でほぼ成熟していますが、海外にはまだ開拓余地が残されており、欧州・新興国を中心に事業エリアを広げています。こうした環境下で、付加価値の高い商品と課題解決のアイデアを世界中のものづくり現場に提供する仕事は、大きなやりがいを感じられるでしょう。ただし、高い成果を求められる環境であるため、一定のプレッシャーや自己管理能力が必要とされます。報酬水準や成長機会という点では確かに魅力が大きい一方で、自身の適性や志向との相性を踏まえて検討することが重要です。